1999年9月２９日（水）生放送！
1時の時報が流れ、ニュースが始まりました。私はスタジオパークの通路で、フジ子さんの登場を待っていました。両側に人がいっぱいで、拍手のリハーサルです。高見知佳ちゃん、NHKのアナウンサーが登場し、フジ子さんの弾く「愛の夢」が流れてきました。静かなムードで番組は始まりました。そこへ登場したフジ子さん！なにを思ったのか、すたすたと歩いて行きそうになり、二人の司会者が慌てて呼び止めるというアクシデントに、思わず、微笑ましくなりました。みんな、気持ちがなごやかになったような。私たちの作った通路をゆっくりにこやかに、緊張しながら歩くフジ子さん。お声をかけたら、ニコっと笑ってくださり、黒のベルベットのお帽子とワイン色のジャケット、そして、黒のスカートがとてもバランス良くお似合いでした。いつもはスパッツやロングスカートらしいのに、思いきった短かめのスカートはさっそうとしていて素敵でした。
いつもはゲストの席は画面向かって右側なのですが、フジ子さんは右耳の聴力を失っているので、左耳でお話しが聞けるようにと、席は左側に用意されていました。椅子に腰掛けて、緊張気味です。話しかける司会者の質問にもすんなりとは答えずに、御自分のペースを崩さないフジ子さん。生い立ちやお母さまの厳しかったこと、「バカだ、バカだ、と言われていたので、本当に私はバカなんだと思っていて、40歳でスウェーデンへ移住し、音楽の教師の資格を取るために受けた試験でIQ160だと知り、ああ！私はバカじゃなかったんだとわかったんです」。正直な話し方、とてもはっきりしたお声に思わず聞き入りました。オペラ歌手のような発声きれいで堂々としたソプラノです。
「ドイツにいた時に白鳥が飛んでくる川のそばに暮らしてたから、毎朝、白鳥やカラスにパンをちぎってやってたの。そうしたら、ドイツ人が鳥のふんは公害だから、えさはやらないでって言うのよ。罰金があって。そんなの変よね。私なんか長いこと猫や鳥たちと暮らしてるけど、病気になったことなんて、一度もないわよ。」
「初恋は軍人さんだった。プクっと太った人。」「私はいろんな人に恋するんです。今も3人くらいの人に恋しています。相手には奥さんがいたって構わないの。誰にも言わないでいるからかまやしないし、すぐに好きになって、すぐに忘れちゃうこともあるから。」
ウィーンでのリサイタル直前に風邪をこじらせて両耳の聴力を失った時の絶望感は体験したフジ子さんでなければ到底わからない苦しみだったでしょう。でも、そんな時でも、希望を捨てずに、好きな絵を書いて自分を励まし、自分を信じていたフジ子さん、夢を捨てない心の強さを知りました。
軽く、休憩が入り、愛猫「びょんびょん」の登場です。もうかわいくてかわいくて。フジ子さんの膝の上でおとなしい「びょんびょん」。ドイツからずっと一緒だったから、もうずいぶんと高齢なんだそうです。目はかすんでよく見えないし、耳も遠くなっていて、呼んでもよくわからない。フジ子さんに吸い込まれるように抱かれて、幸せそうです。フジ子さんのお宅には8匹の猫ちゃんが住んでいます。フジ子さんが拾ってきた猫ちゃんたちがいつの間にか仲良く、お互いのことに干渉しないで暮らしているのです。フジ子さんが夜、ピアノに向かうと、なんとなく集まってくる猫たち。ほんと！フジ子さんのピアノを毎日聴けるなんて、なんて幸せな猫ちゃんたちなのでしょう！
番組が終わりに近づきます。司会者はまとめようと焦っています。でも、フジ子さんはマイペース。「ドイツにいた時にほめてもらったときのように、日本でも言ってもらえることに驚いている。日本人ってすごいなあと思った。ドイツ人の人が通勤の電車の中で私のCDを毎日聴いていると言っていた。とてもうれしい。」と、最後まで、抑揚のきいた素晴らしいお声で話してくださったフジ子さん。これからのますますの御活躍を心から祈りました。とても良いお顔のフジ子さんでした。