2000年5月20日（土）18：30開演
フジ子のリサイタル、、、初めての雨でした。上野の森に降る雨に静かな興奮を抱いて、今夜の演奏に思いをはせていました。
上野公園の木々が５月の雨に濡れて、新緑が鮮やかに、うっそうと茂り、フジ子の訪れを待っているかのようでした。
重厚な造りの建物、東京文化会館の大ホールを超満員にして、フジ子のピアノが聴ける喜びに浸りました。
ロビーでは開演前のざわめきの中で、出版されたばかりの本やCDなどが飛ぶように売られていきました。
手渡されたプログラムの中に、フジ子のメッセージがありました。その中から、、、
最近の私は涙がぜんぜん出なくなってしまっています。もう出し切ってしまったのでしょう。
私の歩んで来た人生の道は、お話にならないくらいひどい事があり過ぎました。中世の時代なら、「HEXE」として猫といっしょに火あぶりにされていたと思います。
すぐぼろぼろ涙を出す人たち、、、、人間味にあふれた人と云われてますが、、、、を見ると、まだ幸せの方が多かった人々と思ったりしています。だからどうぞ泣かないで笑って下さい。
PROGRAM
シューベルト
�ｦ即興曲 変ト長調 Op.90-3
ショパン
�ｦマズルカ 第47番 イ短調 Op.68-2
�ｦ夜想曲 第1番 変ロ短調 Op.-1
�ｦ遺作 嬰ハ短調
リスト
�ｦため息 S.144-3
�ｦ乙女の願い S.480
�ｦ葬送曲 S.173-7
�ｦいずこへ S.565-5 美しき水車小屋の娘より
第2曲D.795-2
�ｦラ・カンパネラ S.141-3 パガニーニによる大練習曲
スカルラッティー
�ｦソナタ ホ長調 K.380, ハ長調 K.159
シューマン
�ｦ謝肉祭 Op.9
白のドレスに薄紫色のレースのショールが高貴な雰囲気を漂わせています。
フジ子の前髪にティアラがキラっと光って、紅潮したほほを一層美しく見せています。ステージに現れた途端、場内にため息が、、、神々しいフジ子を私たち聴衆はただ、見上げていました。今夜もフジ子の世界へようこそと少し、はにかみがちに微笑むフジ子。
降りしきる雨に合わせるかのように、しっとりとシューベルトが語ります。まるで、今、ここに、いるかのように、、、。
軽やかに、光り輝く音。白鳥のように繊細で折れそうな音色にたおやかな弾力を感じる一音、一音。まるで、弓のように腕はしない、芳醇なしずくとなってしたたる指。
体全体で、無心にピアノに向かう姿から、醸し出される音のつながりがフジ子独得の世界を築いているのです。彫刻家のように、建築家のように。
「私はピアノを弾きながら、世界中を旅してるのよ。弾くだけで、いろんな国へ行けるの」
「いろんな作曲家のいろんな曲を弾いてると、その時々に出会った人や景色なんかが出てきて、とても楽しいの」
自由に舞い踊る社交界の華やかさや、静かに物思いにふける透明な世界を漂って、永遠に弾き続けることへのひたむきな心を私は感じるのです。きっと、、そうだと。